Charlotte's Web
21.最後の日

そこには、シャーロットとウィルバーしかいませんでした。人間たちは、ファーンをさがしにいってしまいました。テンプルトンはねむっていました。ウィルバーは、表彰式の興奮と緊張でくたびれて横になっていました。首にかかったままのメダルが光っているのが、横目で見ると見えました。

しばらくして、ウイルバーが声をかけました。

「シャーロット、どうしてだまってるの?」

「だまってじっとしてるのが、すきなのよ。いつだって、そうだったでしょ」シャーロットがこたえました。

「うん。でも、今日はいつもよりずっとしずかだね。気分でもわるいの?」

「たぶん、少しつかれてるのね。でも、気持ちはとてもおだやかよ。けさあなたが受けた栄誉は、少しはわたしの栄誉でもあったんですもの。これでだいじょうぶ。もうなんの心配もなく、くらしていけるはずよ。秋の日はどんどん短くなって、これからはさむくなるんでしょう。木の葉が枝からはなれて、落ちてくるでしょう。クリスマスがきて、冬の雪がやってくるでしょう。あなたは生きながらえて、こおった世界の美しさを見ることができるのよ。だって、ザッカーマンさんは、だいじなブタに害を加えようとはぜったいにしないでしょうからね。冬がすぎると、日が長くなって、氷がとけて牧場には池ができるでしょう。ウタスズメがもどってきてうたい、カエルが目をさまし、あたたかい風がまた吹いてくるでしょう。ウィルバー、あなたはそういう景色や音やにおいを、ぞんぶんに楽しむことができるのよ。この美しい世界を、このすばらしい日々を……」

シャーロットは、そこまでいうと、だまってしまいました。すると、ウィルバーの目になみだがひとつぶうかんできました。

「ああ、シャーロット、ぼく最初に会ったとき、きみのこと、血に飢えた残酷な動物だと思っちゃったんだよね!」

少しおちついてから、ウィルバーはまたいいました。

「ど
うして、ぼくのためにいろいろしてくれたの?ぼくにそんな価値ないのに。きみには、なにもしてあげてないのに」

「あなたはいいお友達だったわ。それだけで、すばらしいことじゃないの。あなたがすきだから、わたしは網に文字を書いたのよ。生きるって、どういうことだと思う?生まれてきて、少しばかり生きて、死んでいくんでしょう。クモの一生なんて、わなをしかけたり、羽虫を食べたりの、さんざんなものなの。あなたをたすければ自分の一生が、ちょっとはましなものになると思ったのかもしれないわ。そんなことがあったって、いいでしょ」シャーロットがこたえました。

「ぼくは演説は得意じゃないから、きみみたいにじょうずに話ができないんだ。でも、シャーロット、きみはぼくを救ってくれた。だからぼくは、よろこんできみに命をささげるよ。ほんとだよ」と、ウィルバーがいいました。

「その気持ち、信じるわ。ありがとう」

「シャーロット、今日は、みんなで家に帰る日だよ。品評会はもうすぐおわる。納屋にもどつてまた羊やガチョウに会えるなんて、すてきだと思わない?早く帰りたいと思わない?」

しばらくのあいだ、シャーロットはなにもいいませんでした。それから、ウィルバーがやっとききとれるくらいの、とても低い声でいいました。

「わたしは納屋には帰らないわ」

ウィルバーは、びつくりしてとびあがりました。

「帰らないって?シャーロット、なにをいってるの?」

「わたしはもうおしまいなの。あと一日か二日の命よ。木箱までおりていく力ものこってないの。地面まで降りていく糸だって、きっともう出てこないと思うわ」

これをきくと、ウィルバーはたまらなくなり、つっぷして体をふるわせながら泣きました。かなしくて、しゃくりあげたり、うめいたりしました。

「シヤーロット!シャーロット!ほんとうの友だちのシャーロット!」

「さあさあ、大さわぎしないで、ウィルバー。おちつくのよ。みっともないわ」

「だけど、ぼく、がまんできないんだ」ウィルバーがさけびました。「きみをここで死なせるわけにはいかないよ。きみが帰らないっていうんなら、ぼくもここにのこる」

「ばかなこといわないで。あなたはここにはいられないわ。ザッカーマンやラーヴィーやジョン・エラブルたちがもうすぐやってきて、その木箱にあなたをおしこんで、運んでいくんでしょ。それに、あなたがここにのこったって、しかたがないね。えさをくれる人がだれもいないんですもの。品評会がおわれば、みんなひきあげて、ここにはだれもいなくなるのよ」

ウイルバーは、どうしていいかわからず、かこいのなかをぐるぐる、ぐるぐる走りまわりました。するとふいに、いい考えがうかびました。たまごのふくろと、春には生まれるという五百十四ひきのクモの赤ちゃんのことを考えたのです。シャーロットは納屋にもどることができないとしても、シャーロットのたまごはつれて帰らなくてはなりません。

ウィルバーは、かこいの柵まで走っていきました。前足を板にかけて、あたりを見まわしました。遠くに、エラブルさんたちとザッカーマンさんたちが見えました。こちらに向かってくるところです。いそがなくてはなりません。

「テンプルトンはどこ?」ウィルバーはききました。

「すみっこのわらの下で、ねむってるわ」シャーロットがこたえました。

ウィルバーはいそいで走りより、丈夫な鼻先でネズミを持ち上げました。

「テンプルトン!きいてくれよ!」ウィルバーはさけびました。

それまでぐっすりねむっていたテンプルトンは、最初はぼうっとしていましたがやがて怒りだしました。

「なんてことするんだ!乱暴に持ち上げるなんて!ネズミには、ちょっとのうたたねもさせてもらえないのかい?」

ウィルバーは、ひっしでいいました。

「きいてくれよ!シャーロットがひどい病気なんだ。あと少ししか生きられない。いつしょにうちに帰ることもできないんだ。だから、どうしてもぼくがシャーッ。トのたまごぶくろを持って帰らなきゃならないんだよ。ぼくは、たまごぶくろまで背がとどかないし、のぼることもできない。とってこられるのは、きみだけなんだ。一秒だってむだにはできない。人間たちがこっちに向かってるからね。すぐにここまでやってくる。だから、おねがいだよ、テンプルトン。どうか、あそこまでのぼって、たまごのふくろをとってきてよ」

ネズミは、あくびをしました。つぎに、ひげをしごきました。それから、たまごぶくろを見あげました。

「で、またまたテンプルトンにたすけてほしいだと?テンプルトン、これをしてくれ、テンプルトン、あれをしてくれ、テンプルトン、ゴミ捨て場にいって雑誌の切りぬきをもってきて、テンプルトン、網をつくるからひもを貸してってな」ネズミは、うんざりした顔でいいました。

「ねえ、いそいでよ!テンプルトン、いそいでったら!」ウィルバーがせかしました。

けれどもネズミはいそごうとはせず、こんどはウィルバーの声をまねしました。

「ふん・テンプルトン、いそいでってかい?ほほう、それでいろいろしてやったあげくに、おれさまがどんなお礼をしてもらったっていうんだい?やさしいことばの一つどころか、悪口と皮肉しかいわれたことないもんな。ネズミは、ねぎらいのことば一つ、もらえないってわけだ」

「テンプルトン」ウィルバーは、ひっしでした。「おしゃべりをやめて、たのみをきいてくれないと、とりかえしがつかなくなって、ぼくはかなしくて死んじゃうよ。おねがいだから、あそこまでのぼってよ!」

テンプルトンは、わらの上にねそべりました。すっかりくつろいでいるみたいに、のろのろと前足を頭の下に入れ、足を組みました。

「かなしくて死んじゃうってか。おかわいそうにな!やれやれ!なんでもこまったことがあれば、いつだっておれのところへくるんだ。だけど、だれかがおれのためにかなしんだなんて、きいたこともねえ。まったくな。テンプルトンのことなんか、だれも心配しやしないんだ」

「起きてよ!あまったれた子どもみたいなまねはやめてよ!」ウィルバーはキイキイ声でいいました。

テンプルトンは、にやっと笑っただけで、そのまま動きませんでした。

「ゴミ捨て場まで何度も行ってやったのは、だれなんだい?テンプルトンさまじゃないか!エラブルんとこの男の子を、くさったガチョウのたまごで撃退してやったのは、だれなんだい?おやおや、それもテンプルトンさまだ!けさ、みんなの前でお前さんが気を失ったとき、しつぼをかじって立ちあがらせてやったのは、だれなんだい?テンプルトンさまさ。おれが、つかいはしりやたのみごとに、うんざりしてるかもしれないって、考えたことはないのかい?おれのこと、なんだと思ってるんだい?なんでも屋のネズミかい?」

ウィルバーはあせっていました。すぐに人間がやってきます。それなのにネズミは、いうことをきいてくれそうもありません。そのときふいにウィルバーはテンプルトンが食いしん坊だということを思い出しました。

「テンプルトン、ぼく、誓うよ。シャーロットのたまごぶくろをとってきてくれたら、ラーヴィーがえさを運んできたとき、これからは先に食べさせてあげる。えさ箱から、なんでもすきなものを食べていいよ。きみが食べおわるまで、ぼくは待ってるから」

ネズミは上半身を起こして、ききました。

「ほんとにかい?」

「約束するよ。誓うよ」

「よし、それなら決まりだ」

テンプルトンはそういうと、壁をのぼりはじめました。おなかは、ゆうべたらふく食べたために、まだふくらんだままです。うめいたり、不平をいったりしながら、テンプルトンは、ゆっくりと天井までのぼっていきました。シャーロットがわきによって道をあけました。死にかけてはいましたが、まだちょこっと動くだけの力はのこっていたのです。

それからテンプルトンは、長いみにくい歯をむきだして、ふくろを天井につなぎとめている糸を切りはじめました。ウィルバーは、下から見ていました。

「そうっとそうっと!たまごが一つもいたまないようにね」

「こいつはべたべた口にくっつくぜ。キャラメルよりしまつがわるいよ」ネズミが文句をいいました。

それでもテンプルトンは役目をはたし、ふくろを天井からはずして下まで運んでくると、ウィルバーのまえにおきました。ウィルバーは、ほっとして大きなため息をつきました。

「ありがとう、テンプルトン。ぼく、生きてるかぎり、このことわすれないよ」

「おれだってさ」ネズミが歯をほじりながら、いいました。「まるで、糸巻きをまるごと食べちまったみたいだったぜ。さあ、うちに帰ろうぜ!」

テンプルトンは、木箱にもぐりこんで、わらの下に身をかくしました。ちょうとそのとき、ラーヴィーとファーンのお父さんとザッカーマンのおじさんが、やってきました。ファーンのお母さんとザッカーマンのおばさんとエイヴリーとファーンも、つづきます。ウィルバーは、どうやってたまごぶくろを運ぶか、もう決めてありました。方法は一つしかなかったのです。小さなふくろをじぶんの口にふくみ、舌の上にそっとのせました。シャーロットからきいた話をおぼえていたからです。たまごのふくろは水を通さないし、じょうぶだという話です。舌ざわりは奇妙で、よだれもでてきます。それに、当然ウィルバーはなにもいえなくなりました。でも、木箱におしこめられたとき、ウイルバーはシャーロットを見あげて、ウィンクしました。

シャーロットには、ウィルバーがこれしかないやり方でさよならをいっているのがわかりました。こうしてもらえば、子どもたちも安全です。

「さようなら!」シャーロ。トはささやきました。それから、残っていたありったけの力をふりしぼって、一本の前足をウィルバーに向けてふりました。

それからは、シャーロットはもう二度と動きませんでした。つぎの日、大観覧車が解体され、競馬馬が車につみこまれ、芸人たちが荷物をまとめてトレーラーで去っていったとき、シャーロットは死にました。にぎやかだった広場は、すぐに人っ子ひとりいなくなりました。小屋や建物はがらんとして、さびしくなりました。フィールドには、あきびんやゴミがちらかっていました。品評会には何百人もの人間がやってきましたが、灰色のクモが重大な役割をはたしたことを知る者は、ひとりもいませんでした。そしてシャーロットは、だれにも見守られずに死んでいったのです。



22.春の風

ウィルバーは、納屋の地下にあるお気に入りの堆肥の山にもどってきました。首には名誉のメダルをかけ、口のなかにはクモのたまごをふくんでいたのですから、なんとも奇妙なすがたでした。それでも、「うちほどいいところはないな」とウィルバーは思い・シャーロットのこれから生まれる五百十四ひきの子どもたちを、安全なすみっこにおきました。納屋はいいにおいがしました。友だちの羊やガチョウは、ウィルバーがもどったのを見て、よろこんでくれました。

ガチョウたちは、歓迎のことばをがなりたてました。

「おめでとう、おめでとう、おめでとう!よくやったね」

ザッカーマンさんは、メダルをウィルバーの首からはずし、ブタのへやの上のくぎにかけました。そこなら、見物客からよく見えるし、ウィルバーも、いつでもすきなときに見ることができます。

それからしばらくのあいだ、ウィルバー、は、とてもしあわせで
もう心配はありませんでした。ウィルバーは、しょっちゅうシャーロットのことを考えました。戸口には、シャーロットの巣のなごりの糸が何本か、まだかかったままでした。毎日その主のいないやぶれた網を見るたびに、ウィルバーののどに熱いものがこみあげてきました。あんなにやさしくて、あんなに誠実で、あんなに腕のいい友だちを持った幸せ者が、ほかにいるはずがありません。

秋の日は、だんだんに短くなっていきました。ラーヴィーが、畑からカボチャやペポカボチャをとってきて、夜の霜にやられないように納屋の床につみあげました。カエデやシラカバの葉があざやかな色にかわ倹風が喚ぐとはらはらと塗した・雛の野生のリンゴの木の下には、小さな赤い実がいっぱい落ち、羊がかじったり、ガチョウがかじったり、夜になるとキツネがきて、においをかいだりしました。

クリスマスまちかのある夜、雪がふりはじめました。雪は、家にも納屋にも畑にも森にもつもりました。ウィルバーが雪を見たのは、はじめてのことでした。朝になると、ウィルバーは外にでて、かこいのなかの雪をほりかえして楽しみました。ファーンとエイヴリーが、そりをひっぱりながらやってきました。ふたりは、牧場にあるこおった池をめざして、小道をすべりおりていきました。

「なんてったって、そりすべりがいちばんおもしろいよな」エイヴリーがいいました。

「いちばんおもしろいのは、大観覧車がとまったとき、ヘンリーとあたしがてっぺんにいて、ヘンリーがワゴンをゆらして、ふたりでずっとずっと向こうまで見わたせることよ」と、ファーンがいいかえしました。

マ愛っ・まだあの籔軋のこと考えてるのかい?・。誕.餐んて、もうずいぶんまえの話じゃないか」エイヴリーが、あきれた顔でいいました。

「あたしは、いつもあのときのことを思いだしてるの」ファーンが、耳に入った雪をとりながらいいました。

クリスマスがすぎると・気温が餐+度まで下がりました・寒気がいすわり、雛は寒風にさらされてこおりつきました。雌牛たちは納屋のなかで毎日をすごし、晴れた朝だけ前庭にでて、わら山で風をよけながら日光浴をするのでした。羊たちも、安全のため納屋の近くをうろうろしていました。のどがかわくと、雪を食べました。ガチョウたちは、まるで男の子たちが雑貨屋でたむろするみたいに、前庭でうろうろしていました。ザッカーマンのおじさんは、剤気づけにトウモロコシやカブをえさにやりました。

「どうも、どうも、どうもありがとう!」ガチョウたちは、えさをもらうと、いつもいいました。

テンプルトンは、冬がくると、納屋のなかに引っ越してきました。ブタのえさ箱の下に
り、なにかの道具や記念品を見つけるたびに、テンプルトンはこの巣にもって帰って、しまっておくのでした。そして、一日三度は、ちょうど食事どきにウィルバーをたずねてきましたが、ウィルバーはきっちりと約束を守りました。じぶんより先に、ネズミにえさを食べさせたのです。テンプルトンが、もうこれ以上口に入れるのはむりだというときまで待ってから、ウィルバーは食べはじめました。テンプルトンは、食べすぎのため、ネズミとは思えないほど大きく、まるくなりました。じっさい、巨大な体つきでした。都いウッドチャックくらいの大きさにはなっていたのです。

ある日、羊のおばさんが忠告しました。

「あんた、もう少し食べるのをひかえたほうが、長生きできるよ」

「長生きなんて、だれがしたいもんか」と、ばかにしたようにネズミはいいました。「おれは、生まれつき大食いだし、おいしいものを食べるのは、いうにいわれないよろこびなんだからね」

テンプルトンはおなかをなでながら、羊に向かってにんまり笑い、上の階にいってねてしまいました。

冬のあいだずっと、ウィルバーは、まるで自分の子どもを守るみたいにシャーロットのたまごのふくろを見守りました。ウィルバーは、板べいのそばの堆肥のなかにくぼみをつくり、そこをたまごのおき場と決めていました。とてもさむい夜は、そのそばにねて、自分の息でたまごをあたためました。というのも、ウィルバーにとっては、この小さなまるいものほど、だいじなものはなかったからです。ほかのものは、たいした意味をもっていませんでした。

ウィルバーは、冬がおわってクモの赤ちゃんが誕生するのを、しんぼう強く待っていました。なにかが起きたり、生まれてきたりするのを待っているときというのは、時間はとぶようにすぎていってはくれないものです。それでも、ついに冬がおわりました。

「今日はカエルの声がきこえたよ」ある晩、羊のおばさんがいいました。

「ほら、今だってきこえてるだろ」

もの小さなカエルが、いっせいに声をはりあげているのがきこえてきました。

「春なんだよ。また、春がきたのさ」羊のおばさんは、しみじみといいました。

羊のおばさんが向こうへいくとき、そのあとから子羊がついていくのが、ウィルバーにも見えました。子羊は、たった数時間前に生まれたばかりでした。

雪がとけて、流れだしました。小川や堀は、いきおいよく流れこむ水であわだちながら、おしゃべりをしています。胸にしまが入ったスズメがやってきて、歌をうたいました。光がまぶしくなり、日の出がどんどん早くなっていきました。ほとんど毎朝のように、羊のへやには新しい赤ちゃんが識蛋ピました・ガチョウのおばさん吋九このたまごをあたためていました。空がひろくなったように感じられ、あたたかい風が吹いてきました。

シャーロットの古い巣の最後の糸が、風に吹かれて、どこかへとんでいってしまいました。

ある晴れた朝、朝ごはんのあとで、ウィルバーはだいじなたまごのふくろをぼんやりとながめていました。そのうちに、なにかが動いているのに気づきました。近よって、じっと見ていると、一ぴきの小さな小さなクモが、ふくろからはいだしてきました。砂つぶよりも、ピンの頭よりも小さなクモです。灰色の体の下のほうには、黒いしまが入っています。足は、灰色と黄褐色です。シャーロットにそっくりでした。

そのクモの赤ちゃんを見たとき、ウィルバーはぶるぶるふるえました。小さなクモは、ウィルバーに向かって前足をふりました。ウィルバーは、もっと近よって見てみました。

さらに二ひきのクモの赤ちゃんが、はいだしてきて前足をふりました。出てきた赤ちゃんたちは、ふくろのまわりを歩きまわって、新しい世界を探検しました。そこへ、もう三びきがはいだしてきました。それから八ぴき。おつぎは十ぴき。ついにシャーロットの子どもたちが誕生したのです。

ウィルバーの脇が、ドキドキと高鳴りました。ウィルバーはキイキイ声をあげ、堆肥をはねあげながら、あたりを走りまわりました。そのあとでうしろ宙がえりをして、それからようやく、シャーロットの子どもたちのまえでとまりました。

「やあ、こんにちは!」ウィルバーはいいました。

影梛のクモの子が「こんにちは」といいましたが、声があんまり小さかったので、ウィルバーにはきこえませんでした。

「ぼくは・きみたちのお母さんの友だちなんだ」ウィルバーがいいました。「よろしくね。きみたち、だいじょうぶなの?なにかこまってることはないの?」

小さなクモの子たちは、みんなして前足をふりました。そのようすから、クモの子もウィルバーに会えてうれしいんだな、とわかりました。

「責二戸-)つごニヒ)卜?セりなハもわはないの?一足をふったり、細い糸を吐いたり、納屋を探検したりしました。クモの子はおおぜいで、ウィルバーにはかぞえられませんでした。とてもたくさんの新しい友だちができたのです。

クモの子たちは、見る見る大きくなりました。すぐにBB弾くらいの大きさになり、たまごぶくろのそばに、小さな巣を張りました。

あるおだやかな朝のことでした。ザッカーマンさんが、北側の戸をあけました。下から吹きあげるあたたかい風が、納屋の地下にも入ってきました。その風は、しめった土と、トウヒの森と、さわやかな春のにおいを運んできました。クモの子たちも、その下から吹きあがる考な春風を感じとりました・一ぴきのクモの子が・難漣のてっぺんまであがりました。それからのできごとは、見ているウィルバーを、おおいにびっくりさせるものでした。クモの子は、さかだちすると、空に紡績突起を向けて、こまかい糸のかたまりを吐きだしました。その糸が気球の役割をはたしました。ウィルバーの見ている目のまえで、クモの子は、板べ・いをはなれ、空にのぼっていきました。

「さようなら!」戸口からただよいでていくとき、クモの子はいいました。

「ちょっと待ってよ!」ウィルバーは悲鳴をあげました。「どこへいくつもりなの?」

でも、クモの子のすがたはもう見えませんでした。そのうちに、またべつのクモの子が板べいのてっぺんにあがり、さかだちすると、気球をつくって、とびあがりました。つぎつぎにクモの子がやっ.てきては、とびあがっていきました。あたりはすぐに、小さな気球でいっぱいになりました。どの気球も、ク
ようやく一ぴきのクモの子が、気球をつ
分の巣をつくるんです」

「でも、どこへ9」ウィルバーがたずねました。

「風にまかせて、どこへでも。高いところ、低いところ、近くへ、遠くへ、東でも、西でも、北でも、南でも。そよ風に乗って、気の向くままに」

「みんな、いっちゃうの?」ウィルバーがたずねました。「みんながいなくなったら、ぼくは友だちのいない、ひとりぼっちのブタになっちゃうよ。きみたちのお母さんは、きっとそんなの望んでなかったと思うけどな」

気球乗りたちがつぎつぎにとびあがったので、納屋の地下はまるでかすみがかかったように見えました。何十もの気球がのぼっていき、円をえがき、戸口の外へでて、春風に乗ってとんでいきます。「さようなら、さようなら、さようなら!」というかすかな声が、ウィルバーの耳にとどきました。ウイルバーは、それ以上見ていることができませんでした。かなしくて地面につっぷすと、ウィルバーはぎゅっと目をとじました。シャーロットの子どもたちに見捨てられるなんて、こんなひどいことはありません。ウィルバーは泣きながらねむりました。

ウィルバーが目をさましたのは、午後のおそい時間でした。見ると、たまごのふくろはからつぼでした。あたりを見まわしても、気球乗りたちはもういませんでした。ウィルバーはみじめな気持ちで、まえにシャーロットの巣がかかっていた戸口まで歩いていきました。シャーロットを思いだしながらそこに立っていると、小さな声がきこえました。

「「ごきげんうるわしくていらっしゃる?わたしはここよ」

「わたしもよ」と、もう一つの小さな声。

「わたしもなの」と、三ばんめの声。「わたしたち三びきはここでくらすの。この場所がすきだし、それにあなたのこともすきだから」

見あげると、戸口の梁に小さなクモの網が三つかかっていました。

ビリ周こもンヤーロツトのむすめ

「っていうと、きみたちは、この納屋の地下に住みつくことにしたの?の友だちができるっていうことなの?」

ぼくには三びき
「そ、・なのよ」と、クモたちはいい薩

「きみたちの名前をおしえてよ」と、よろこびに体をふるわせながら、ウィルバーはたずねました。

「どうしてふるえてるのかおしえてくれたら、わたしの名前もおしえてあげるわ」と、最初のクモの子がいいました。

「うれしいからだよ」と・ウィルバーが,」斐ました・,,が

「だったら、わたしの名前はジョイ(よろこび)よ」最初のクモの子はいいました。

「お母さんの、まんなかの名前の頭文字はなんだった?」二ばんめのクモの子がききました。

「Aだよ」と、ウィルバi。

「だったら、わたしの名前はアラネア(クモのラテン語名)よ」と、二ばんめのクモの子はいいました。

「つぎはわたしね。なにかいい名前を、えらんでもらえないかしら1長すぎなくて、きばつすぎなくて、まぬけすぎない名前がいいな」と、三ばんめのクモの子がいいました。

ウィルバーは、いっしょけんめい考えました。

「ネリーはどう?」

「いい名前ね・気に入ったわよ。じゃあネーってよんでち湧鰭」 そういいながら・そのクモの子は、くるっと円にした糸を、欝状の糸にきっちり結びつけました。きかいウィルバあ脇は・しあわせではちきれそう噂した。そして、.あはれがまし機会をとらえて、ちょっとした演説をする気になりました。あみ

「ジョイ!アラ不てネー-欝の地下へ考.」そ。きみたちは、網をか硯場所として・懲な戸・愛らびました。ぼくは、きみたちのお母さんが大すきで、尊敬していたことをお話ししておきたいと思います.含穿が生きてい輪るの轡きみたちのお母さんのおかげです・シャ占・トは、りっぱで、美し-て、最後まで誠実なクモでした・その思い出を・ぼぐ竺生だいじにしていきたいと思っています。そのシャ】ロットのむすめであるきみたちにも、ぼくは永遠の友情を誓いますL

「わたしも誓います」ジョイがいいました。

「わたしも」アラネアがいいました。

「)≧ノ)に一ド)1も心ハましセ。ネリーま、ちょうど小さなブヨをつかま、えたところな日々がつづきました。時がうつり、年月がたっても、ウィルバーにはいつも友だちがい.ました。ファーンはもう、毎日は欝にやってこなくなりました・大きくなったので・ブタのへやのとなりで雅しぼりのこしかけにすわるというような子どもつぽいことは、なるべくしないようにしていたのです。でも、シャーロットの子どもたちや、擁たち、ひ灘たちは、毎年毎年締盈の地下の戸口でくらしつづけました。年とったクモが死んでも、春がくるたびに、クモの子どもたちがあらたに生まれてきました。そのほとんどは、気球に乗ってとんでいってしまいました・けれども・いつも二ひきか=一びきは欝にとどま咲ぜ口藁をつくりました。

ザッカーマンさんは、最後までちゃんとウィルバーのめんどうをみました。そして、いつもウィルバーのお友だちやファンが、農場をたずねてきました。ウィルバーがかがやかしい勝利をおさめた日のことや、クモ.の巣の奇跡のことは、だれもわすれなかったからです。納屋のくらしは、夜も昼も、冬も夏も、春も秋も、くもった日も晴れた日も、いつも快適でした。どこよりもここがいちばんだ、とウィルバーは思いました。あたたかくて、おいしいものがいっぱいあって、おしゃべりなガチョウたちがいて、季節がうつりかわっていって、お日さまがぼかぼかしていて、ツバメがいききして、ネズミがそばにいて、羊はいつもかわらなくて、大すきなクモたちがいて、聡謄のにおいがして、すべてが縣形につつまれているのが、この納屋のくらしなのでした。

ウィルバーは、シャーロットのことをけっしてわすれませんでした。子どもたちや孫たちのことも、ウィルバーは大すきでしたが、シャーロットにはだれもかないませんでした。

シャーロットは、ウイルバーの心のなかで、だれともくらべようがないほど大きな位置をしめていたのです。すばらしいことばが書けて、しかも、ほんとうに親しい友だちというのは、なかなか得られるものではありません。シャーロットは、その両方だったのです。