Charlotte's Web 9
9.ウィルバーのじまん
クモの巣は、見た目よりずっとじょうぶです。かぼそい糸でできていても、網はかんたんにはこわれません。けれども、かかった虫はバタバタあばれるので、毎日のようにほころびができます。穴がたくさんあいた網は、あらたに糸をくりだして修繕しなければなりません。シャーロットは、午後のおそい時間に糸をつむぐのがすきで、ファーンは、そばにすわってそれをながめるのがすきでした。ある午後のこと、ファーンはとてもおもしろい会話をきき、ふしぎなできごとを目にしました。
「きみの足は、すごく毛深いね、シャーロット」クモがいそがしく働いているときに、ウィルバーはいいました。
「わたしの足が毛深いのには、ちゃんと理由があるのよ」と、シャーロットはこたえました。「そのうえ、わたしの足は、七つの部分にわかれていて、コクサ、トロカンター、フィーマー、パテラ塞関節、ティビア、メタターサス、ターサスって名前がついてるの」
ウィルバーは、それをきくと、姿勢を正していいました。
「じょうだんなんでしょ」
「いいえ、じょうだんじゃないわ」
「もういちど、さっきの名前いってよ。ぼく一回じゃよくわからなかった」
「コクサ、トロカンター、フィーマー、パテラ、ティビア、メタターサス、ターサスよL「あれまあ!」ウィルバーは、じぶんのぷっくりした足を見おろしながらいいました。
「ぼくの足は、七つにはわかれていそうもないな」
「そりゃあ、あなたとわたしは、ちがう生き方をしてるんですもの。あなたは、網をつくる必要がないでしょ。網をつくるには、りっぱな足がいるのよ」
「ぼくだって、やろうと思えば網くらいつくれるさ」ウィルバーは、じまんげにいいました。「ただ、これまではやる気にならなかっただけだよ」
「じゃあ、やってみせてちょうだい」と、シャーロットはいいました。
ファーンは、いかにもこの子ブタがいとしくてたまらないという顔をして、くすっと笑いました。
「いいよ。おしえてくれれば、ぼくだってできるよ。網をつくるなんて、きっと楽しいだろうな。最初はどうやるの?」
「いっぱい息を吸って!」
シャーロットが笑いながら、いいました。ウィルバーは、胸いっぱいに息を吸いこみました。
「つぎは、できるだけ高いところにのぼるのよ。こんなふうにね」
シャーロットはそういうと、戸口のてっぺんまでするするとのぼりました。ウィルバーは、堆肥の山のてっぺんまでよじのぼりました。
「それでいいわ!」シャーロットがいいました。「そうしたら、おしりからだした糸をどこかへつないでから、宙にとびだすの。引き糸をシューッと出しながらね!」
ウィルバーは、ちょっとためらいましたが、思いきってとびました。すぐにちらっとふりかえって、おしりから糸がでているか調べましたが、それらしいものは見えません。
あっと思ったときには、ウィルバーは、ドシンとしりもちをついていました。
「あいたた!」ウィルバーは、ブウブウいいました。
シャーロットは、おかしくておかしくて、あんまり笑ったので、網がゆらゆらゆれました。
「どこがいけなかったのかな?」
おしりの痛みがおさまると、ウィルバーはたずねました。
「どこもわるくないわ。よかったわよ」と、シャーロット。
「じゃあ、もういちどやってみようかな」ウィルバーは元気な声でいいました。「短いひもでいいから、あるといいんだよな」
ウィルバーは、庭にでていって、「ねえ、テンプルトン、いるの?」と、よびました。
ネズミが、えさ箱の下から顔をのぞかせました。
「短いのでいいから、ひもがあったら貸してくれないかな?網をつくるのに、いるんだよ」ウィルバーはたのみました。
「いいよ。おやすいご用さ」テンプルトンはこたえました。
ひもなら、しまっておいたのがあります。テンプルトンは、巣穴にもぐると、ガチョウのたまごをどけて、うすよごれた白いひもをひっぱりだして、持ってきました。ウィルバーは、そのひもを調べました。
「ちょうどいいよ。はじつこをぼくのしっぽにゆわえつけてくれないか」ウィルバーは、テンプルトンにたのみました。
ウイルバーは低くしゃがんで、くるっとまるまった細いしっぽを、ネズミのほうに向けました。テンプルトンは、子ブタのしっぽにひもをまき、ひっかけ結びを二つつくりました。シャーロットは大よろこびで見ていました。ファーンとおなじで、シャーロットもウィルバーが大すきでした。ブタのへやのにおいと、くさりかけの食べものがハエをよびよせるのもありがたいし、ウィルバーが弱虫ではなく、もういちど挑戦する気になっているのも、たのもしいかぎりです。ネズミとクモと女の子が見まもるなか、ウィルバーはもういちど堆肥の山の上に、いさんで元気よくのぼっていきました。
「みんな、見てて!」
そういうと、ウィルバーは力いっぱいはねて、頭から先にとびおりました。ひもは、たしかにうしろに長くのびました。でも、もういっぽうのはしをどこにも結んでおかなかったので、ひもはちっとも役に立ちませんでした。ウィルバーはドスンと落ちて、とっても痛い思いをしました。目になみだがうかんできました。テンプルトンは、にやにや笑いました。シャーロットはだまって見ていましたが、しばらくすると、こういいました。
「ウィルバーには、網をつくるのはむりね。この話は、もうわすれたほうがいいわ。網をつくるのに必要な二つのものが、あなたにはないんだもの」
「その二つって、なんなの?」ウィルバーは、しょんぼりとたずねました。
「あなたには、糸を吐くための紡績突起がないし、コツもわかってないのよ。でも、がっかりしなくていいのよ。網はあなたには必要ないんだもの。ザッカーマンさんが、毎日三回、たっぷりとした食事を運んでくれるんだからね。わなをしかけることなんて、考えなくていいの」
ウィルバーは、ため息をつきました。
「きみは、ぼくよりずっとずっと頭がいいんだね。ぼく、えらそうにじまんしようとしたから、こんな目にあっちゃったのかもしれないな」
テンプルトンは、ひもをほどいて、もってかえりました。シャーロットは、網をつくる仕事にもどりました。
「そんなにしょんぼりしないで、ウィルバー」と、シャーロットはいいました。「網をつくることができる生きものなんて、あんまりいないの。人間だって、クモほどはじょうずにつくれないんだもの。人間は、自分ではじょうずだと思ってるし、なんでもやろうとするんだけど、うまくはいかないのよ。クイーンズバラ橋の話、きいたことある?」
ウィルバーは首を横にふりました。
「それ、網の名前なの?」
「まあ、似たようなものよ。でも、つくるのに人間がどれくらいかかったと思う?まるまる八年よ。なんてことでしょう。そんなにかかったら、飢え死にしちゃうわ。わたしなら、ひと晩で網をつくれるのに」
「人間は、クイーンズバラ橋でなにをつかまえるの?虫?」ウィルバーはたずねました。
「いいえ。なにもつかまえないの。橋の向こう側にはなにかいいことがあるんじゃないかと思って、橋をいったりきたりするだけなのよ。てっぺんからさかさまにぶらさがって、じっと待ってたほうが、なにかいい獲物がひっかかるかもしれないのにね。でも、人間はいつもせかせかせかせか動きまわってるのよ。わたし、定座性のクモでよかったわ」
「テイザセイって、なに?」
「あっちこっち動きまわらないで、長いことじっとしてるってことよ。なにがいいか、わたしにはわかってるの。いい網がありさえすれば、ひとつのところを動かないで、くるものを待ってればいいのよ。そのあいだに、わたしは考えてるの」
「そうか。ぼくだって、テイザセイってやつなんだと思うな。すききらいにかかわらず、ここにいなきゃいけないんだもの。こんな夜には、ぼくがどこにいたいか、わかる?」
「どこなの?」
「森のなかにいて、ブナの実とかキノコとか、おいしい根っこをさがしてたいよ。ぼくのすばらしいじょうぶな鼻で、葉っぱをかきわけて、地面をフンフンかぎながら、においでさがすんだ……」
そこへ、ちょうど入ってきた子羊がいいました。
「おまえ、自分のにおいはどうなんだよ。ここからだって、おまえのくさいにおいがわかるよ。この納屋でいちばんくさいのは、おまえじゃないか」
ウィルバーはうなだれました。目がなみだで光っています。シャーロットは、ウィルバーがきまりわるい思いをしているのを見てとると、子羊にきっぱりといいました。
「ウィルバーのことはほっといて!こういうところにいれば、においがするのはあたりまえよ。自分だって、スイートピーみたいなにおいはしてないでしょ。それに、あなたがじゃまするまでは、わたしたち、とっても楽しい話をしてたのよ。ねえ、ウィルバー、失礼なじゃまが入るまで、なんの話をしてたんだったかしら?」と、シャーロットはいいました。
「ぼく、おぼえてないよ。それに、もうどうだっていいや。少ししずかにしていようよ。ねむくなってきちゃったんだ。きみは、網を直す仕事をつづけててよ。ぼく、ここで横になって見てるから。気持ちのいい夕方だね」
ウィルバーは、ごろりと横になって体をのばしました。
夕闇がおとずれ、ザッカーマンさんの納屋は、おだやかなしずけさにつつまれました。そろそろ夕ごはんの時間だとわかっていましたが、納屋をたちさる気にはなれませんでした。ツバメが音もなく戸口を出たり入ったりして、ひなにえさを運んでいます。道路の向こうから、ヨタカが「ホイッパーウィル、ホイッパーウィル」と鳴いている声がきこえてきます。ラーヴィーがリンゴの木の下にこしをおろしてパイプに火をつけると、納屋の動物たちにはおなじみの、強いタバコのにおいがただよってきました。ウィルバーの耳には、アマガエルがケロケロ鳴く声や、台所のドアがときおりバタンとしまる音もきこえてきました。こうした物音は心地よくひびき、きいているうちにしあわせな気持ちになってきました。ウィルバーは生きていることがすきで、この夏の夕べに自分がこの世に生きていることを楽しんでいたのです。でも、横になっているうちに、羊のおばさんがいっていたことが気になりだしました。死ぬということを考えると、おそろしくて、体がぶるぶるふるえました。
「シャーロット?」ウィルバーは、そっといいました。
「なあに、ウィルバー?」
「ぼく、死にたくないよ」
「そりゃあそうよね」シャーロットは、なぐさめるような声でいいました。
この納屋がすきなんだもん」と、ウィルバーはいいました。「この場所のなにもカもカすきなんだ」
「わかるわ。わたしたちもみんな、そう思ってるんですもの」と、シャーロット。
ガチョウのおばさんが、七羽のひなをつれてあらわれました。ひなたちは、小さな首をのばして、ピヨピヨと鳴きました。まるで小さな笛ふき隊のようです。ウィルバーは、いとおしそうに耳をかたむけていました。
「シヤーロット?」
「なあに?」
「ぼくのこと、ころされないようにするって約束してくれたけど、あれ、本気なの?」
「これ以上本気のことはないわ。あなたをころさせやしないわよ、ウィルバー」
「どうやって、たすけてくれるの?」ウィルバーはたずねました。そこのところが、知りたくてたまりませんでした。
「さあ、まだはっきりはしてないんだけど、いま考えてるとこよ」
「うれしいな。で、うまくいきそうなのかな、シャーロット?計画は進んでるの?なんとかなりそうなの?」
ウィルバーは、また心配でふるえてきましたが、シャーロットのほうは、おちついていて、あわてませんでした。
「あら、うまくいくでしょうよ」と、シャーロットは、きらくな調子でいいました。「計画はまだ考えはじめたところだし、まだどうなるか、はっきりしてないけど、まかせといて」
「いつ考えてくれてるの?」と、ウィルバーはききました。
「織のてっぺんから、さかさにぶらさがってるときよ。血がぜんぶ頭にあつまるから、考えごとをするのにちょうどいいの」
「できることがあったら、ぼくなんでも手つだうよ」
「ええ、でも、ひとりで考えたほうがいいわ。ひとりのほうが、しっかり考えられるもの」
「わかったよ。でも、もしなにか手つだえることがあったら、どんなちっちゃなことでもいいから、おしえてね」
「そうね、心がけてほしいのは、すくすくじょうぶに育つことよ。たっぷりとねむって、心配はしないこと。あわてたり、さわいだりしないこと。食べものはよくかんで、きれいにたいらげること。ただし、テンプルトンのとりぶんだけは、のこしといてね。体重をふやして、元気でいること。あなたにできるのは、そういうことよ。すくすく育って、くよくよしないのが、いちばんなの。わかるかしら?」
「うん、わかった」ウィルバーがこたえました。
「だったら、もうおやすみなさい。ねむるのは、だいじなことなのよ」と、シャーロットはいいました。
ウィルバーは、へやのすみの暗いところまで歩いていって、ごろんと横になりました。そして、目をとじました。でもすぐに、また口をひらきました。
「シヤーロツト?」
「なあに、ウィルバー」
「晩ごはんがのこってないかどうか、えさ箱のところまで見にいっていいかな?マッシュポテトが、ほんのちょっぴりのこってたような気がするんだよ」
「いいわ。でも、すんだらすぐにねるのよ」
ウィルバーは、いそいで庭にでていきました。
「ゆっくり、ゆっくり!」シャーロットがいいました。「あわてたり、さわいだりしないこと!」
ウィルバーは足をゆるめ、ゆっくりとえさ箱までいきました。ポテトが少しだけのこっていたのを、ウィルバーはゆっくりとあじわい、のみこんでから、また寝場所にもどりました。それから目をとじて、しばらくのあいだはだまっていました。
「シャーロット?」ウィルバーが、またささやきました。
「なあに?」
「ミルクをのみにいってもいいかな?えさ箱に、ちょっぴりミルクがのこってたような気がするんだ」
「いいえ、えさ箱はからっぽだから、もうねてちょうだい。おしゃべりはおしまいよ。目をとじて、ねむるのよ!」
ウィルバーは目をとじました。ファーンはこしかけから立ちあがり、家にもどる道を歩きはじめました。ファーンの頭のなかは、いま見たりきいたりしたことで、いっぱいになっていました。
「おやすみなさい、シャーロット!」ウィルバーがいいました。
「おやすみなさい、ウィルバー!」
それから少したつと、また声がきこえました。
「おやすみなさい、シャーロット!」
「おやすみなさい、ウィルバー!」
「おやすみなさい!」
「おやすみなさい!」
英文のみです。
日本語訳のみです。
Charlotte's Web 10
クモの巣は、見た目よりずっとじょうぶです。かぼそい糸でできていても、網はかんたんにはこわれません。けれども、かかった虫はバタバタあばれるので、毎日のようにほころびができます。穴がたくさんあいた網は、あらたに糸をくりだして修繕しなければなりません。シャーロットは、午後のおそい時間に糸をつむぐのがすきで、ファーンは、そばにすわってそれをながめるのがすきでした。ある午後のこと、ファーンはとてもおもしろい会話をきき、ふしぎなできごとを目にしました。
「きみの足は、すごく毛深いね、シャーロット」クモがいそがしく働いているときに、ウィルバーはいいました。
「わたしの足が毛深いのには、ちゃんと理由があるのよ」と、シャーロットはこたえました。「そのうえ、わたしの足は、七つの部分にわかれていて、コクサ、トロカンター、フィーマー、パテラ塞関節、ティビア、メタターサス、ターサスって名前がついてるの」
ウィルバーは、それをきくと、姿勢を正していいました。
「じょうだんなんでしょ」
「いいえ、じょうだんじゃないわ」
「もういちど、さっきの名前いってよ。ぼく一回じゃよくわからなかった」
「コクサ、トロカンター、フィーマー、パテラ、ティビア、メタターサス、ターサスよL「あれまあ!」ウィルバーは、じぶんのぷっくりした足を見おろしながらいいました。
「ぼくの足は、七つにはわかれていそうもないな」
「そりゃあ、あなたとわたしは、ちがう生き方をしてるんですもの。あなたは、網をつくる必要がないでしょ。網をつくるには、りっぱな足がいるのよ」
「ぼくだって、やろうと思えば網くらいつくれるさ」ウィルバーは、じまんげにいいました。「ただ、これまではやる気にならなかっただけだよ」
「じゃあ、やってみせてちょうだい」と、シャーロットはいいました。
ファーンは、いかにもこの子ブタがいとしくてたまらないという顔をして、くすっと笑いました。
「いいよ。おしえてくれれば、ぼくだってできるよ。網をつくるなんて、きっと楽しいだろうな。最初はどうやるの?」
「いっぱい息を吸って!」
シャーロットが笑いながら、いいました。ウィルバーは、胸いっぱいに息を吸いこみました。
「つぎは、できるだけ高いところにのぼるのよ。こんなふうにね」
シャーロットはそういうと、戸口のてっぺんまでするするとのぼりました。ウィルバーは、堆肥の山のてっぺんまでよじのぼりました。
「それでいいわ!」シャーロットがいいました。「そうしたら、おしりからだした糸をどこかへつないでから、宙にとびだすの。引き糸をシューッと出しながらね!」
ウィルバーは、ちょっとためらいましたが、思いきってとびました。すぐにちらっとふりかえって、おしりから糸がでているか調べましたが、それらしいものは見えません。
あっと思ったときには、ウィルバーは、ドシンとしりもちをついていました。
「あいたた!」ウィルバーは、ブウブウいいました。
シャーロットは、おかしくておかしくて、あんまり笑ったので、網がゆらゆらゆれました。
「どこがいけなかったのかな?」
おしりの痛みがおさまると、ウィルバーはたずねました。
「どこもわるくないわ。よかったわよ」と、シャーロット。
「じゃあ、もういちどやってみようかな」ウィルバーは元気な声でいいました。「短いひもでいいから、あるといいんだよな」
ウィルバーは、庭にでていって、「ねえ、テンプルトン、いるの?」と、よびました。
ネズミが、えさ箱の下から顔をのぞかせました。
「短いのでいいから、ひもがあったら貸してくれないかな?網をつくるのに、いるんだよ」ウィルバーはたのみました。
「いいよ。おやすいご用さ」テンプルトンはこたえました。
ひもなら、しまっておいたのがあります。テンプルトンは、巣穴にもぐると、ガチョウのたまごをどけて、うすよごれた白いひもをひっぱりだして、持ってきました。ウィルバーは、そのひもを調べました。
「ちょうどいいよ。はじつこをぼくのしっぽにゆわえつけてくれないか」ウィルバーは、テンプルトンにたのみました。
ウイルバーは低くしゃがんで、くるっとまるまった細いしっぽを、ネズミのほうに向けました。テンプルトンは、子ブタのしっぽにひもをまき、ひっかけ結びを二つつくりました。シャーロットは大よろこびで見ていました。ファーンとおなじで、シャーロットもウィルバーが大すきでした。ブタのへやのにおいと、くさりかけの食べものがハエをよびよせるのもありがたいし、ウィルバーが弱虫ではなく、もういちど挑戦する気になっているのも、たのもしいかぎりです。ネズミとクモと女の子が見まもるなか、ウィルバーはもういちど堆肥の山の上に、いさんで元気よくのぼっていきました。
「みんな、見てて!」
そういうと、ウィルバーは力いっぱいはねて、頭から先にとびおりました。ひもは、たしかにうしろに長くのびました。でも、もういっぽうのはしをどこにも結んでおかなかったので、ひもはちっとも役に立ちませんでした。ウィルバーはドスンと落ちて、とっても痛い思いをしました。目になみだがうかんできました。テンプルトンは、にやにや笑いました。シャーロットはだまって見ていましたが、しばらくすると、こういいました。
「ウィルバーには、網をつくるのはむりね。この話は、もうわすれたほうがいいわ。網をつくるのに必要な二つのものが、あなたにはないんだもの」
「その二つって、なんなの?」ウィルバーは、しょんぼりとたずねました。
「あなたには、糸を吐くための紡績突起がないし、コツもわかってないのよ。でも、がっかりしなくていいのよ。網はあなたには必要ないんだもの。ザッカーマンさんが、毎日三回、たっぷりとした食事を運んでくれるんだからね。わなをしかけることなんて、考えなくていいの」
ウィルバーは、ため息をつきました。
「きみは、ぼくよりずっとずっと頭がいいんだね。ぼく、えらそうにじまんしようとしたから、こんな目にあっちゃったのかもしれないな」
テンプルトンは、ひもをほどいて、もってかえりました。シャーロットは、網をつくる仕事にもどりました。
「そんなにしょんぼりしないで、ウィルバー」と、シャーロットはいいました。「網をつくることができる生きものなんて、あんまりいないの。人間だって、クモほどはじょうずにつくれないんだもの。人間は、自分ではじょうずだと思ってるし、なんでもやろうとするんだけど、うまくはいかないのよ。クイーンズバラ橋の話、きいたことある?」
ウィルバーは首を横にふりました。
「それ、網の名前なの?」
「まあ、似たようなものよ。でも、つくるのに人間がどれくらいかかったと思う?まるまる八年よ。なんてことでしょう。そんなにかかったら、飢え死にしちゃうわ。わたしなら、ひと晩で網をつくれるのに」
「人間は、クイーンズバラ橋でなにをつかまえるの?虫?」ウィルバーはたずねました。
「いいえ。なにもつかまえないの。橋の向こう側にはなにかいいことがあるんじゃないかと思って、橋をいったりきたりするだけなのよ。てっぺんからさかさまにぶらさがって、じっと待ってたほうが、なにかいい獲物がひっかかるかもしれないのにね。でも、人間はいつもせかせかせかせか動きまわってるのよ。わたし、定座性のクモでよかったわ」
「テイザセイって、なに?」
「あっちこっち動きまわらないで、長いことじっとしてるってことよ。なにがいいか、わたしにはわかってるの。いい網がありさえすれば、ひとつのところを動かないで、くるものを待ってればいいのよ。そのあいだに、わたしは考えてるの」
「そうか。ぼくだって、テイザセイってやつなんだと思うな。すききらいにかかわらず、ここにいなきゃいけないんだもの。こんな夜には、ぼくがどこにいたいか、わかる?」
「どこなの?」
「森のなかにいて、ブナの実とかキノコとか、おいしい根っこをさがしてたいよ。ぼくのすばらしいじょうぶな鼻で、葉っぱをかきわけて、地面をフンフンかぎながら、においでさがすんだ……」
そこへ、ちょうど入ってきた子羊がいいました。
「おまえ、自分のにおいはどうなんだよ。ここからだって、おまえのくさいにおいがわかるよ。この納屋でいちばんくさいのは、おまえじゃないか」
ウィルバーはうなだれました。目がなみだで光っています。シャーロットは、ウィルバーがきまりわるい思いをしているのを見てとると、子羊にきっぱりといいました。
「ウィルバーのことはほっといて!こういうところにいれば、においがするのはあたりまえよ。自分だって、スイートピーみたいなにおいはしてないでしょ。それに、あなたがじゃまするまでは、わたしたち、とっても楽しい話をしてたのよ。ねえ、ウィルバー、失礼なじゃまが入るまで、なんの話をしてたんだったかしら?」と、シャーロットはいいました。
「ぼく、おぼえてないよ。それに、もうどうだっていいや。少ししずかにしていようよ。ねむくなってきちゃったんだ。きみは、網を直す仕事をつづけててよ。ぼく、ここで横になって見てるから。気持ちのいい夕方だね」
ウィルバーは、ごろりと横になって体をのばしました。
夕闇がおとずれ、ザッカーマンさんの納屋は、おだやかなしずけさにつつまれました。そろそろ夕ごはんの時間だとわかっていましたが、納屋をたちさる気にはなれませんでした。ツバメが音もなく戸口を出たり入ったりして、ひなにえさを運んでいます。道路の向こうから、ヨタカが「ホイッパーウィル、ホイッパーウィル」と鳴いている声がきこえてきます。ラーヴィーがリンゴの木の下にこしをおろしてパイプに火をつけると、納屋の動物たちにはおなじみの、強いタバコのにおいがただよってきました。ウィルバーの耳には、アマガエルがケロケロ鳴く声や、台所のドアがときおりバタンとしまる音もきこえてきました。こうした物音は心地よくひびき、きいているうちにしあわせな気持ちになってきました。ウィルバーは生きていることがすきで、この夏の夕べに自分がこの世に生きていることを楽しんでいたのです。でも、横になっているうちに、羊のおばさんがいっていたことが気になりだしました。死ぬということを考えると、おそろしくて、体がぶるぶるふるえました。
「シャーロット?」ウィルバーは、そっといいました。
「なあに、ウィルバー?」
「ぼく、死にたくないよ」
「そりゃあそうよね」シャーロットは、なぐさめるような声でいいました。
この納屋がすきなんだもん」と、ウィルバーはいいました。「この場所のなにもカもカすきなんだ」
「わかるわ。わたしたちもみんな、そう思ってるんですもの」と、シャーロット。
ガチョウのおばさんが、七羽のひなをつれてあらわれました。ひなたちは、小さな首をのばして、ピヨピヨと鳴きました。まるで小さな笛ふき隊のようです。ウィルバーは、いとおしそうに耳をかたむけていました。
「シヤーロット?」
「なあに?」
「ぼくのこと、ころされないようにするって約束してくれたけど、あれ、本気なの?」
「これ以上本気のことはないわ。あなたをころさせやしないわよ、ウィルバー」
「どうやって、たすけてくれるの?」ウィルバーはたずねました。そこのところが、知りたくてたまりませんでした。
「さあ、まだはっきりはしてないんだけど、いま考えてるとこよ」
「うれしいな。で、うまくいきそうなのかな、シャーロット?計画は進んでるの?なんとかなりそうなの?」
ウィルバーは、また心配でふるえてきましたが、シャーロットのほうは、おちついていて、あわてませんでした。
「あら、うまくいくでしょうよ」と、シャーロットは、きらくな調子でいいました。「計画はまだ考えはじめたところだし、まだどうなるか、はっきりしてないけど、まかせといて」
「いつ考えてくれてるの?」と、ウィルバーはききました。
「織のてっぺんから、さかさにぶらさがってるときよ。血がぜんぶ頭にあつまるから、考えごとをするのにちょうどいいの」
「できることがあったら、ぼくなんでも手つだうよ」
「ええ、でも、ひとりで考えたほうがいいわ。ひとりのほうが、しっかり考えられるもの」
「わかったよ。でも、もしなにか手つだえることがあったら、どんなちっちゃなことでもいいから、おしえてね」
「そうね、心がけてほしいのは、すくすくじょうぶに育つことよ。たっぷりとねむって、心配はしないこと。あわてたり、さわいだりしないこと。食べものはよくかんで、きれいにたいらげること。ただし、テンプルトンのとりぶんだけは、のこしといてね。体重をふやして、元気でいること。あなたにできるのは、そういうことよ。すくすく育って、くよくよしないのが、いちばんなの。わかるかしら?」
「うん、わかった」ウィルバーがこたえました。
「だったら、もうおやすみなさい。ねむるのは、だいじなことなのよ」と、シャーロットはいいました。
ウィルバーは、へやのすみの暗いところまで歩いていって、ごろんと横になりました。そして、目をとじました。でもすぐに、また口をひらきました。
「シヤーロツト?」
「なあに、ウィルバー」
「晩ごはんがのこってないかどうか、えさ箱のところまで見にいっていいかな?マッシュポテトが、ほんのちょっぴりのこってたような気がするんだよ」
「いいわ。でも、すんだらすぐにねるのよ」
ウィルバーは、いそいで庭にでていきました。
「ゆっくり、ゆっくり!」シャーロットがいいました。「あわてたり、さわいだりしないこと!」
ウィルバーは足をゆるめ、ゆっくりとえさ箱までいきました。ポテトが少しだけのこっていたのを、ウィルバーはゆっくりとあじわい、のみこんでから、また寝場所にもどりました。それから目をとじて、しばらくのあいだはだまっていました。
「シャーロット?」ウィルバーが、またささやきました。
「なあに?」
「ミルクをのみにいってもいいかな?えさ箱に、ちょっぴりミルクがのこってたような気がするんだ」
「いいえ、えさ箱はからっぽだから、もうねてちょうだい。おしゃべりはおしまいよ。目をとじて、ねむるのよ!」
ウィルバーは目をとじました。ファーンはこしかけから立ちあがり、家にもどる道を歩きはじめました。ファーンの頭のなかは、いま見たりきいたりしたことで、いっぱいになっていました。
「おやすみなさい、シャーロット!」ウィルバーがいいました。
「おやすみなさい、ウィルバー!」
それから少したつと、また声がきこえました。
「おやすみなさい、シャーロット!」
「おやすみなさい、ウィルバー!」
「おやすみなさい!」
「おやすみなさい!」
英文のみです。
日本語訳のみです。
9.ウィルバーのじまん
クモの巣は、見た目よりずっとじょうぶです。かぼそい糸でできていても、網はかんたんにはこわれません。けれども、かかった虫はバタバタあばれるので、毎日のようにほころびができます。穴がたくさんあいた網は、あらたに糸をくりだして修繕しなければなりません。シャーロットは、午後のおそい時間に糸をつむぐのがすきで、ファーンは、そばにすわってそれをながめるのがすきでした。ある午後のこと、ファーンはとてもおもしろい会話をきき、ふしぎなできごとを目にしました。
「きみの足は、すごく毛深いね、シャーロット」クモがいそがしく働いているときに、ウィルバーはいいました。
「わたしの足が毛深いのには、ちゃんと理由があるのよ」と、シャーロットはこたえました。「そのうえ、わたしの足は、七つの部分にわかれていて、コクサ、トロカンター、フィーマー、パテラ塞関節、ティビア、メタターサス、ターサスって名前がついてるの」
ウィルバーは、それをきくと、姿勢を正していいました。
「じょうだんなんでしょ」
「いいえ、じょうだんじゃないわ」
「もういちど、さっきの名前いってよ。ぼく一回じゃよくわからなかった」
「コクサ、トロカンター、フィーマー、パテラ、ティビア、メタターサス、ターサスよL「あれまあ!」ウィルバーは、じぶんのぷっくりした足を見おろしながらいいました。
「ぼくの足は、七つにはわかれていそうもないな」
「そりゃあ、あなたとわたしは、ちがう生き方をしてるんですもの。あなたは、網をつくる必要がないでしょ。網をつくるには、りっぱな足がいるのよ」
「ぼくだって、やろうと思えば網くらいつくれるさ」ウィルバーは、じまんげにいいました。「ただ、これまではやる気にならなかっただけだよ」
「じゃあ、やってみせてちょうだい」と、シャーロットはいいました。
ファーンは、いかにもこの子ブタがいとしくてたまらないという顔をして、くすっと笑いました。
「いいよ。おしえてくれれば、ぼくだってできるよ。網をつくるなんて、きっと楽しいだろうな。最初はどうやるの?」
「いっぱい息を吸って!」
シャーロットが笑いながら、いいました。ウィルバーは、胸いっぱいに息を吸いこみました。
「つぎは、できるだけ高いところにのぼるのよ。こんなふうにね」
シャーロットはそういうと、戸口のてっぺんまでするするとのぼりました。ウィルバーは、堆肥の山のてっぺんまでよじのぼりました。
「それでいいわ!」シャーロットがいいました。「そうしたら、おしりからだした糸をどこかへつないでから、宙にとびだすの。引き糸をシューッと出しながらね!」
ウィルバーは、ちょっとためらいましたが、思いきってとびました。すぐにちらっとふりかえって、おしりから糸がでているか調べましたが、それらしいものは見えません。
あっと思ったときには、ウィルバーは、ドシンとしりもちをついていました。
「あいたた!」ウィルバーは、ブウブウいいました。
シャーロットは、おかしくておかしくて、あんまり笑ったので、網がゆらゆらゆれました。
「どこがいけなかったのかな?」
おしりの痛みがおさまると、ウィルバーはたずねました。
「どこもわるくないわ。よかったわよ」と、シャーロット。
「じゃあ、もういちどやってみようかな」ウィルバーは元気な声でいいました。「短いひもでいいから、あるといいんだよな」
ウィルバーは、庭にでていって、「ねえ、テンプルトン、いるの?」と、よびました。
ネズミが、えさ箱の下から顔をのぞかせました。
「短いのでいいから、ひもがあったら貸してくれないかな?網をつくるのに、いるんだよ」ウィルバーはたのみました。
「いいよ。おやすいご用さ」テンプルトンはこたえました。
ひもなら、しまっておいたのがあります。テンプルトンは、巣穴にもぐると、ガチョウのたまごをどけて、うすよごれた白いひもをひっぱりだして、持ってきました。ウィルバーは、そのひもを調べました。
「ちょうどいいよ。はじつこをぼくのしっぽにゆわえつけてくれないか」ウィルバーは、テンプルトンにたのみました。
ウイルバーは低くしゃがんで、くるっとまるまった細いしっぽを、ネズミのほうに向けました。テンプルトンは、子ブタのしっぽにひもをまき、ひっかけ結びを二つつくりました。シャーロットは大よろこびで見ていました。ファーンとおなじで、シャーロットもウィルバーが大すきでした。ブタのへやのにおいと、くさりかけの食べものがハエをよびよせるのもありがたいし、ウィルバーが弱虫ではなく、もういちど挑戦する気になっているのも、たのもしいかぎりです。ネズミとクモと女の子が見まもるなか、ウィルバーはもういちど堆肥の山の上に、いさんで元気よくのぼっていきました。
「みんな、見てて!」
そういうと、ウィルバーは力いっぱいはねて、頭から先にとびおりました。ひもは、たしかにうしろに長くのびました。でも、もういっぽうのはしをどこにも結んでおかなかったので、ひもはちっとも役に立ちませんでした。ウィルバーはドスンと落ちて、とっても痛い思いをしました。目になみだがうかんできました。テンプルトンは、にやにや笑いました。シャーロットはだまって見ていましたが、しばらくすると、こういいました。
「ウィルバーには、網をつくるのはむりね。この話は、もうわすれたほうがいいわ。網をつくるのに必要な二つのものが、あなたにはないんだもの」
「その二つって、なんなの?」ウィルバーは、しょんぼりとたずねました。
「あなたには、糸を吐くための紡績突起がないし、コツもわかってないのよ。でも、がっかりしなくていいのよ。網はあなたには必要ないんだもの。ザッカーマンさんが、毎日三回、たっぷりとした食事を運んでくれるんだからね。わなをしかけることなんて、考えなくていいの」
ウィルバーは、ため息をつきました。
「きみは、ぼくよりずっとずっと頭がいいんだね。ぼく、えらそうにじまんしようとしたから、こんな目にあっちゃったのかもしれないな」
テンプルトンは、ひもをほどいて、もってかえりました。シャーロットは、網をつくる仕事にもどりました。
「そんなにしょんぼりしないで、ウィルバー」と、シャーロットはいいました。「網をつくることができる生きものなんて、あんまりいないの。人間だって、クモほどはじょうずにつくれないんだもの。人間は、自分ではじょうずだと思ってるし、なんでもやろうとするんだけど、うまくはいかないのよ。クイーンズバラ橋の話、きいたことある?」
ウィルバーは首を横にふりました。
「それ、網の名前なの?」
「まあ、似たようなものよ。でも、つくるのに人間がどれくらいかかったと思う?まるまる八年よ。なんてことでしょう。そんなにかかったら、飢え死にしちゃうわ。わたしなら、ひと晩で網をつくれるのに」
「人間は、クイーンズバラ橋でなにをつかまえるの?虫?」ウィルバーはたずねました。
「いいえ。なにもつかまえないの。橋の向こう側にはなにかいいことがあるんじゃないかと思って、橋をいったりきたりするだけなのよ。てっぺんからさかさまにぶらさがって、じっと待ってたほうが、なにかいい獲物がひっかかるかもしれないのにね。でも、人間はいつもせかせかせかせか動きまわってるのよ。わたし、定座性のクモでよかったわ」
「テイザセイって、なに?」
「あっちこっち動きまわらないで、長いことじっとしてるってことよ。なにがいいか、わたしにはわかってるの。いい網がありさえすれば、ひとつのところを動かないで、くるものを待ってればいいのよ。そのあいだに、わたしは考えてるの」
「そうか。ぼくだって、テイザセイってやつなんだと思うな。すききらいにかかわらず、ここにいなきゃいけないんだもの。こんな夜には、ぼくがどこにいたいか、わかる?」
「どこなの?」
「森のなかにいて、ブナの実とかキノコとか、おいしい根っこをさがしてたいよ。ぼくのすばらしいじょうぶな鼻で、葉っぱをかきわけて、地面をフンフンかぎながら、においでさがすんだ……」
そこへ、ちょうど入ってきた子羊がいいました。
「おまえ、自分のにおいはどうなんだよ。ここからだって、おまえのくさいにおいがわかるよ。この納屋でいちばんくさいのは、おまえじゃないか」
ウィルバーはうなだれました。目がなみだで光っています。シャーロットは、ウィルバーがきまりわるい思いをしているのを見てとると、子羊にきっぱりといいました。
「ウィルバーのことはほっといて!こういうところにいれば、においがするのはあたりまえよ。自分だって、スイートピーみたいなにおいはしてないでしょ。それに、あなたがじゃまするまでは、わたしたち、とっても楽しい話をしてたのよ。ねえ、ウィルバー、失礼なじゃまが入るまで、なんの話をしてたんだったかしら?」と、シャーロットはいいました。
「ぼく、おぼえてないよ。それに、もうどうだっていいや。少ししずかにしていようよ。ねむくなってきちゃったんだ。きみは、網を直す仕事をつづけててよ。ぼく、ここで横になって見てるから。気持ちのいい夕方だね」
ウィルバーは、ごろりと横になって体をのばしました。
夕闇がおとずれ、ザッカーマンさんの納屋は、おだやかなしずけさにつつまれました。そろそろ夕ごはんの時間だとわかっていましたが、納屋をたちさる気にはなれませんでした。ツバメが音もなく戸口を出たり入ったりして、ひなにえさを運んでいます。道路の向こうから、ヨタカが「ホイッパーウィル、ホイッパーウィル」と鳴いている声がきこえてきます。ラーヴィーがリンゴの木の下にこしをおろしてパイプに火をつけると、納屋の動物たちにはおなじみの、強いタバコのにおいがただよってきました。ウィルバーの耳には、アマガエルがケロケロ鳴く声や、台所のドアがときおりバタンとしまる音もきこえてきました。こうした物音は心地よくひびき、きいているうちにしあわせな気持ちになってきました。ウィルバーは生きていることがすきで、この夏の夕べに自分がこの世に生きていることを楽しんでいたのです。でも、横になっているうちに、羊のおばさんがいっていたことが気になりだしました。死ぬということを考えると、おそろしくて、体がぶるぶるふるえました。
「シャーロット?」ウィルバーは、そっといいました。
「なあに、ウィルバー?」
「ぼく、死にたくないよ」
「そりゃあそうよね」シャーロットは、なぐさめるような声でいいました。
この納屋がすきなんだもん」と、ウィルバーはいいました。「この場所のなにもカもカすきなんだ」
「わかるわ。わたしたちもみんな、そう思ってるんですもの」と、シャーロット。
ガチョウのおばさんが、七羽のひなをつれてあらわれました。ひなたちは、小さな首をのばして、ピヨピヨと鳴きました。まるで小さな笛ふき隊のようです。ウィルバーは、いとおしそうに耳をかたむけていました。
「シヤーロット?」
「なあに?」
「ぼくのこと、ころされないようにするって約束してくれたけど、あれ、本気なの?」
「これ以上本気のことはないわ。あなたをころさせやしないわよ、ウィルバー」
「どうやって、たすけてくれるの?」ウィルバーはたずねました。そこのところが、知りたくてたまりませんでした。
「さあ、まだはっきりはしてないんだけど、いま考えてるとこよ」
「うれしいな。で、うまくいきそうなのかな、シャーロット?計画は進んでるの?なんとかなりそうなの?」
ウィルバーは、また心配でふるえてきましたが、シャーロットのほうは、おちついていて、あわてませんでした。
「あら、うまくいくでしょうよ」と、シャーロットは、きらくな調子でいいました。「計画はまだ考えはじめたところだし、まだどうなるか、はっきりしてないけど、まかせといて」
「いつ考えてくれてるの?」と、ウィルバーはききました。
「織のてっぺんから、さかさにぶらさがってるときよ。血がぜんぶ頭にあつまるから、考えごとをするのにちょうどいいの」
「できることがあったら、ぼくなんでも手つだうよ」
「ええ、でも、ひとりで考えたほうがいいわ。ひとりのほうが、しっかり考えられるもの」
「わかったよ。でも、もしなにか手つだえることがあったら、どんなちっちゃなことでもいいから、おしえてね」
「そうね、心がけてほしいのは、すくすくじょうぶに育つことよ。たっぷりとねむって、心配はしないこと。あわてたり、さわいだりしないこと。食べものはよくかんで、きれいにたいらげること。ただし、テンプルトンのとりぶんだけは、のこしといてね。体重をふやして、元気でいること。あなたにできるのは、そういうことよ。すくすく育って、くよくよしないのが、いちばんなの。わかるかしら?」
「うん、わかった」ウィルバーがこたえました。
「だったら、もうおやすみなさい。ねむるのは、だいじなことなのよ」と、シャーロットはいいました。
ウィルバーは、へやのすみの暗いところまで歩いていって、ごろんと横になりました。そして、目をとじました。でもすぐに、また口をひらきました。
「シヤーロツト?」
「なあに、ウィルバー」
「晩ごはんがのこってないかどうか、えさ箱のところまで見にいっていいかな?マッシュポテトが、ほんのちょっぴりのこってたような気がするんだよ」
「いいわ。でも、すんだらすぐにねるのよ」
ウィルバーは、いそいで庭にでていきました。
「ゆっくり、ゆっくり!」シャーロットがいいました。「あわてたり、さわいだりしないこと!」
ウィルバーは足をゆるめ、ゆっくりとえさ箱までいきました。ポテトが少しだけのこっていたのを、ウィルバーはゆっくりとあじわい、のみこんでから、また寝場所にもどりました。それから目をとじて、しばらくのあいだはだまっていました。
「シャーロット?」ウィルバーが、またささやきました。
「なあに?」
「ミルクをのみにいってもいいかな?えさ箱に、ちょっぴりミルクがのこってたような気がするんだ」
「いいえ、えさ箱はからっぽだから、もうねてちょうだい。おしゃべりはおしまいよ。目をとじて、ねむるのよ!」
ウィルバーは目をとじました。ファーンはこしかけから立ちあがり、家にもどる道を歩きはじめました。ファーンの頭のなかは、いま見たりきいたりしたことで、いっぱいになっていました。
「おやすみなさい、シャーロット!」ウィルバーがいいました。
「おやすみなさい、ウィルバー!」
それから少したつと、また声がきこえました。
「おやすみなさい、シャーロット!」
「おやすみなさい、ウィルバー!」
「おやすみなさい!」
「おやすみなさい!」
クモの巣は、見た目よりずっとじょうぶです。かぼそい糸でできていても、網はかんたんにはこわれません。けれども、かかった虫はバタバタあばれるので、毎日のようにほころびができます。穴がたくさんあいた網は、あらたに糸をくりだして修繕しなければなりません。シャーロットは、午後のおそい時間に糸をつむぐのがすきで、ファーンは、そばにすわってそれをながめるのがすきでした。ある午後のこと、ファーンはとてもおもしろい会話をきき、ふしぎなできごとを目にしました。
「きみの足は、すごく毛深いね、シャーロット」クモがいそがしく働いているときに、ウィルバーはいいました。
「わたしの足が毛深いのには、ちゃんと理由があるのよ」と、シャーロットはこたえました。「そのうえ、わたしの足は、七つの部分にわかれていて、コクサ、トロカンター、フィーマー、パテラ塞関節、ティビア、メタターサス、ターサスって名前がついてるの」
ウィルバーは、それをきくと、姿勢を正していいました。
「じょうだんなんでしょ」
「いいえ、じょうだんじゃないわ」
「もういちど、さっきの名前いってよ。ぼく一回じゃよくわからなかった」
「コクサ、トロカンター、フィーマー、パテラ、ティビア、メタターサス、ターサスよL「あれまあ!」ウィルバーは、じぶんのぷっくりした足を見おろしながらいいました。
「ぼくの足は、七つにはわかれていそうもないな」
「そりゃあ、あなたとわたしは、ちがう生き方をしてるんですもの。あなたは、網をつくる必要がないでしょ。網をつくるには、りっぱな足がいるのよ」
「ぼくだって、やろうと思えば網くらいつくれるさ」ウィルバーは、じまんげにいいました。「ただ、これまではやる気にならなかっただけだよ」
「じゃあ、やってみせてちょうだい」と、シャーロットはいいました。
ファーンは、いかにもこの子ブタがいとしくてたまらないという顔をして、くすっと笑いました。
「いいよ。おしえてくれれば、ぼくだってできるよ。網をつくるなんて、きっと楽しいだろうな。最初はどうやるの?」
「いっぱい息を吸って!」
シャーロットが笑いながら、いいました。ウィルバーは、胸いっぱいに息を吸いこみました。
「つぎは、できるだけ高いところにのぼるのよ。こんなふうにね」
シャーロットはそういうと、戸口のてっぺんまでするするとのぼりました。ウィルバーは、堆肥の山のてっぺんまでよじのぼりました。
「それでいいわ!」シャーロットがいいました。「そうしたら、おしりからだした糸をどこかへつないでから、宙にとびだすの。引き糸をシューッと出しながらね!」
ウィルバーは、ちょっとためらいましたが、思いきってとびました。すぐにちらっとふりかえって、おしりから糸がでているか調べましたが、それらしいものは見えません。
あっと思ったときには、ウィルバーは、ドシンとしりもちをついていました。
「あいたた!」ウィルバーは、ブウブウいいました。
シャーロットは、おかしくておかしくて、あんまり笑ったので、網がゆらゆらゆれました。
「どこがいけなかったのかな?」
おしりの痛みがおさまると、ウィルバーはたずねました。
「どこもわるくないわ。よかったわよ」と、シャーロット。
「じゃあ、もういちどやってみようかな」ウィルバーは元気な声でいいました。「短いひもでいいから、あるといいんだよな」
ウィルバーは、庭にでていって、「ねえ、テンプルトン、いるの?」と、よびました。
ネズミが、えさ箱の下から顔をのぞかせました。
「短いのでいいから、ひもがあったら貸してくれないかな?網をつくるのに、いるんだよ」ウィルバーはたのみました。
「いいよ。おやすいご用さ」テンプルトンはこたえました。
ひもなら、しまっておいたのがあります。テンプルトンは、巣穴にもぐると、ガチョウのたまごをどけて、うすよごれた白いひもをひっぱりだして、持ってきました。ウィルバーは、そのひもを調べました。
「ちょうどいいよ。はじつこをぼくのしっぽにゆわえつけてくれないか」ウィルバーは、テンプルトンにたのみました。
ウイルバーは低くしゃがんで、くるっとまるまった細いしっぽを、ネズミのほうに向けました。テンプルトンは、子ブタのしっぽにひもをまき、ひっかけ結びを二つつくりました。シャーロットは大よろこびで見ていました。ファーンとおなじで、シャーロットもウィルバーが大すきでした。ブタのへやのにおいと、くさりかけの食べものがハエをよびよせるのもありがたいし、ウィルバーが弱虫ではなく、もういちど挑戦する気になっているのも、たのもしいかぎりです。ネズミとクモと女の子が見まもるなか、ウィルバーはもういちど堆肥の山の上に、いさんで元気よくのぼっていきました。
「みんな、見てて!」
そういうと、ウィルバーは力いっぱいはねて、頭から先にとびおりました。ひもは、たしかにうしろに長くのびました。でも、もういっぽうのはしをどこにも結んでおかなかったので、ひもはちっとも役に立ちませんでした。ウィルバーはドスンと落ちて、とっても痛い思いをしました。目になみだがうかんできました。テンプルトンは、にやにや笑いました。シャーロットはだまって見ていましたが、しばらくすると、こういいました。
「ウィルバーには、網をつくるのはむりね。この話は、もうわすれたほうがいいわ。網をつくるのに必要な二つのものが、あなたにはないんだもの」
「その二つって、なんなの?」ウィルバーは、しょんぼりとたずねました。
「あなたには、糸を吐くための紡績突起がないし、コツもわかってないのよ。でも、がっかりしなくていいのよ。網はあなたには必要ないんだもの。ザッカーマンさんが、毎日三回、たっぷりとした食事を運んでくれるんだからね。わなをしかけることなんて、考えなくていいの」
ウィルバーは、ため息をつきました。
「きみは、ぼくよりずっとずっと頭がいいんだね。ぼく、えらそうにじまんしようとしたから、こんな目にあっちゃったのかもしれないな」
テンプルトンは、ひもをほどいて、もってかえりました。シャーロットは、網をつくる仕事にもどりました。
「そんなにしょんぼりしないで、ウィルバー」と、シャーロットはいいました。「網をつくることができる生きものなんて、あんまりいないの。人間だって、クモほどはじょうずにつくれないんだもの。人間は、自分ではじょうずだと思ってるし、なんでもやろうとするんだけど、うまくはいかないのよ。クイーンズバラ橋の話、きいたことある?」
ウィルバーは首を横にふりました。
「それ、網の名前なの?」
「まあ、似たようなものよ。でも、つくるのに人間がどれくらいかかったと思う?まるまる八年よ。なんてことでしょう。そんなにかかったら、飢え死にしちゃうわ。わたしなら、ひと晩で網をつくれるのに」
「人間は、クイーンズバラ橋でなにをつかまえるの?虫?」ウィルバーはたずねました。
「いいえ。なにもつかまえないの。橋の向こう側にはなにかいいことがあるんじゃないかと思って、橋をいったりきたりするだけなのよ。てっぺんからさかさまにぶらさがって、じっと待ってたほうが、なにかいい獲物がひっかかるかもしれないのにね。でも、人間はいつもせかせかせかせか動きまわってるのよ。わたし、定座性のクモでよかったわ」
「テイザセイって、なに?」
「あっちこっち動きまわらないで、長いことじっとしてるってことよ。なにがいいか、わたしにはわかってるの。いい網がありさえすれば、ひとつのところを動かないで、くるものを待ってればいいのよ。そのあいだに、わたしは考えてるの」
「そうか。ぼくだって、テイザセイってやつなんだと思うな。すききらいにかかわらず、ここにいなきゃいけないんだもの。こんな夜には、ぼくがどこにいたいか、わかる?」
「どこなの?」
「森のなかにいて、ブナの実とかキノコとか、おいしい根っこをさがしてたいよ。ぼくのすばらしいじょうぶな鼻で、葉っぱをかきわけて、地面をフンフンかぎながら、においでさがすんだ……」
そこへ、ちょうど入ってきた子羊がいいました。
「おまえ、自分のにおいはどうなんだよ。ここからだって、おまえのくさいにおいがわかるよ。この納屋でいちばんくさいのは、おまえじゃないか」
ウィルバーはうなだれました。目がなみだで光っています。シャーロットは、ウィルバーがきまりわるい思いをしているのを見てとると、子羊にきっぱりといいました。
「ウィルバーのことはほっといて!こういうところにいれば、においがするのはあたりまえよ。自分だって、スイートピーみたいなにおいはしてないでしょ。それに、あなたがじゃまするまでは、わたしたち、とっても楽しい話をしてたのよ。ねえ、ウィルバー、失礼なじゃまが入るまで、なんの話をしてたんだったかしら?」と、シャーロットはいいました。
「ぼく、おぼえてないよ。それに、もうどうだっていいや。少ししずかにしていようよ。ねむくなってきちゃったんだ。きみは、網を直す仕事をつづけててよ。ぼく、ここで横になって見てるから。気持ちのいい夕方だね」
ウィルバーは、ごろりと横になって体をのばしました。
夕闇がおとずれ、ザッカーマンさんの納屋は、おだやかなしずけさにつつまれました。そろそろ夕ごはんの時間だとわかっていましたが、納屋をたちさる気にはなれませんでした。ツバメが音もなく戸口を出たり入ったりして、ひなにえさを運んでいます。道路の向こうから、ヨタカが「ホイッパーウィル、ホイッパーウィル」と鳴いている声がきこえてきます。ラーヴィーがリンゴの木の下にこしをおろしてパイプに火をつけると、納屋の動物たちにはおなじみの、強いタバコのにおいがただよってきました。ウィルバーの耳には、アマガエルがケロケロ鳴く声や、台所のドアがときおりバタンとしまる音もきこえてきました。こうした物音は心地よくひびき、きいているうちにしあわせな気持ちになってきました。ウィルバーは生きていることがすきで、この夏の夕べに自分がこの世に生きていることを楽しんでいたのです。でも、横になっているうちに、羊のおばさんがいっていたことが気になりだしました。死ぬということを考えると、おそろしくて、体がぶるぶるふるえました。
「シャーロット?」ウィルバーは、そっといいました。
「なあに、ウィルバー?」
「ぼく、死にたくないよ」
「そりゃあそうよね」シャーロットは、なぐさめるような声でいいました。
この納屋がすきなんだもん」と、ウィルバーはいいました。「この場所のなにもカもカすきなんだ」
「わかるわ。わたしたちもみんな、そう思ってるんですもの」と、シャーロット。
ガチョウのおばさんが、七羽のひなをつれてあらわれました。ひなたちは、小さな首をのばして、ピヨピヨと鳴きました。まるで小さな笛ふき隊のようです。ウィルバーは、いとおしそうに耳をかたむけていました。
「シヤーロット?」
「なあに?」
「ぼくのこと、ころされないようにするって約束してくれたけど、あれ、本気なの?」
「これ以上本気のことはないわ。あなたをころさせやしないわよ、ウィルバー」
「どうやって、たすけてくれるの?」ウィルバーはたずねました。そこのところが、知りたくてたまりませんでした。
「さあ、まだはっきりはしてないんだけど、いま考えてるとこよ」
「うれしいな。で、うまくいきそうなのかな、シャーロット?計画は進んでるの?なんとかなりそうなの?」
ウィルバーは、また心配でふるえてきましたが、シャーロットのほうは、おちついていて、あわてませんでした。
「あら、うまくいくでしょうよ」と、シャーロットは、きらくな調子でいいました。「計画はまだ考えはじめたところだし、まだどうなるか、はっきりしてないけど、まかせといて」
「いつ考えてくれてるの?」と、ウィルバーはききました。
「織のてっぺんから、さかさにぶらさがってるときよ。血がぜんぶ頭にあつまるから、考えごとをするのにちょうどいいの」
「できることがあったら、ぼくなんでも手つだうよ」
「ええ、でも、ひとりで考えたほうがいいわ。ひとりのほうが、しっかり考えられるもの」
「わかったよ。でも、もしなにか手つだえることがあったら、どんなちっちゃなことでもいいから、おしえてね」
「そうね、心がけてほしいのは、すくすくじょうぶに育つことよ。たっぷりとねむって、心配はしないこと。あわてたり、さわいだりしないこと。食べものはよくかんで、きれいにたいらげること。ただし、テンプルトンのとりぶんだけは、のこしといてね。体重をふやして、元気でいること。あなたにできるのは、そういうことよ。すくすく育って、くよくよしないのが、いちばんなの。わかるかしら?」
「うん、わかった」ウィルバーがこたえました。
「だったら、もうおやすみなさい。ねむるのは、だいじなことなのよ」と、シャーロットはいいました。
ウィルバーは、へやのすみの暗いところまで歩いていって、ごろんと横になりました。そして、目をとじました。でもすぐに、また口をひらきました。
「シヤーロツト?」
「なあに、ウィルバー」
「晩ごはんがのこってないかどうか、えさ箱のところまで見にいっていいかな?マッシュポテトが、ほんのちょっぴりのこってたような気がするんだよ」
「いいわ。でも、すんだらすぐにねるのよ」
ウィルバーは、いそいで庭にでていきました。
「ゆっくり、ゆっくり!」シャーロットがいいました。「あわてたり、さわいだりしないこと!」
ウィルバーは足をゆるめ、ゆっくりとえさ箱までいきました。ポテトが少しだけのこっていたのを、ウィルバーはゆっくりとあじわい、のみこんでから、また寝場所にもどりました。それから目をとじて、しばらくのあいだはだまっていました。
「シャーロット?」ウィルバーが、またささやきました。
「なあに?」
「ミルクをのみにいってもいいかな?えさ箱に、ちょっぴりミルクがのこってたような気がするんだ」
「いいえ、えさ箱はからっぽだから、もうねてちょうだい。おしゃべりはおしまいよ。目をとじて、ねむるのよ!」
ウィルバーは目をとじました。ファーンはこしかけから立ちあがり、家にもどる道を歩きはじめました。ファーンの頭のなかは、いま見たりきいたりしたことで、いっぱいになっていました。
「おやすみなさい、シャーロット!」ウィルバーがいいました。
「おやすみなさい、ウィルバー!」
それから少したつと、また声がきこえました。
「おやすみなさい、シャーロット!」
「おやすみなさい、ウィルバー!」
「おやすみなさい!」
「おやすみなさい!」
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