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クラウン1-Lesson7

Lesson7

Not So Long Ago ─さほど遠くない過去─

人間の運命に関わる問題で人間の手に負えないものはない─ジョン・F・ケネディ─

健とスンミは20世紀の写真展に来ています。彼らはエントランスホールで短い紹介を聞いています。

    1

皆さん。私達の写真展「20世紀を振り返って」にようこそ。ここには私達が集めた300枚ほどの写真があります。これらは皆さんに前世紀を垣間見せてくれるでしょう。
20世紀は科学と通信技術において大きな進歩を遂げた時代でした。生活はより豊かに、より快適になりました。人々はより大きな自由と平等を実現し、幸せな生活を送るという夢に近づいていたように見えました。
しかしそれは恐ろしい戦争の時代でもあり、何百万人という人が命を落としました。ここにある写真は私やあなた方のような人々が20世紀にどんな体験をしたかを見せるでしょう。
「もしこれらが自分の家族や友人の写真だったらどう思うか」。写真を見ながらそう自分に問いかけてみてください。ショックを受ける写真もあるだろうし、怒りや悲しみを感じる写真もあるでしょう。しかし写真は私達の未来へのメッセージも伝えてくれるでしょう。
写真展をごらんになる前に特に重要な二枚の写真をお見せしたいと思います。

    2

こちらの写真から始めましょう。この写真はジョー・オダネルというアメリカ人の報道カメラマンが1945年に長崎で撮影したものです。彼は先ごろ、日本人の会見者にこの写真について話しました。
*「10歳くらいの少年が通り過ぎるのを目にしました。彼は背中に赤ちゃんをおぶっていました。当時の日本では弟や妹をおんぶしたまま遊ぶ子供をよく見かけましたが、この少年は明らかに違っていました。彼が深刻な理由でここに来たのがわかりました。彼は靴をはいていませんでした。硬い顔つきをしていました。赤ちゃんはぐっすりと眠っているかのように頭を後ろにのけぞらせていました。
少年は五分か十分くらいそこに立っていました。白いマスクをした男達が彼に歩み寄り、赤ちゃんを結わえていたひもを静かにほどき始めました。私はその時、赤ちゃんがすでに死んでいることに気付いたのです。男達は赤ちゃんの手と足をつかんで火にかけました。
少年は身動きせず炎を見て立ち尽くしていました。彼は下唇をとても強くかんでいたので血で光っていました。炎の勢いは太陽が沈んでいくように衰えました。少年は向きを変え無言で立ち去りました。」

    3

ではもう一枚の写真を見てみましょう。きっとなかにはこの写真を以前見たことがあるという人もいるでしょう。1972年のベトナム戦争時に撮影されたものです。このキム・フックという幼い少女は、服が焼け落ち、苦痛に顔をゆがめて走ってきます。彼女はこの体験をかつてこう語りました。
「耳がまったく聞こえませんでした。周囲の火が見えました。服は火のせいであっという間にどこかへ行ってしまいました。火が体に、特に腕に燃え移っていました。でも足はやけどしませんでした。私は泣きながら火の中から逃げ出しました。走って走って走り続けました。私は入院しました。14ヶ月。体の半分以上に及ぶやけどを治すために17回の手術を受けました。あの事態は私の人生を変えました。
どうしたら人々を助けられるか考えるようになったのです。両親から新聞の写真を最初に見せられたとき、それが私だと信じられませんでした。あまりにひどかったからです。あの写真はみんなに見て欲しい。この写真で戦争が何であるかが分かるからです。子供には怖い物です。表情ですべてが分かります。そこから学んで欲しいと思います。」

    4

写真はこのように雄弁です。過去の出来事を私達に見せます。時として見たくないものまで見せます。
20世紀は戦争の世紀でした。二度の世界大戦、冷戦、世界中の紛争。ある日本人ジャーナリストは20世紀を「受難の三万六千日」とさえ呼びました。ひょっとしたらここにある写真に希望の兆しを見るのは難しいかもしれませんが、その気になれば見えるのです。
キム・フックの話は良い例です。とても多くの人々に暖かく支えられ、彼女は現在カナダで家庭生活を満喫しています。「私はわが子に、母の身に、母なる国に起こったこと、そして二度と戦争はあってはならないことを教えなければなりません。」
二度と戦争はあってはならない。それがこの展示会の写真に託して皆さんに伝えたいメッセージなのです。皆さんには、これらはすべてそう遠くはない過去に起きたのだということを考えておいて欲しいと思います。

「*原文
10歳ぐらいの少年が歩いてくるのが目に留まりました。おんぶひもをたすきにかけて、幼子を背中に背負っています。弟や妹をおんぶしたまま、広っぱで遊んでいる子供の姿は当時の日本でよく目にする光景でした。しかし、この少年の様子ははっきりと違っています。
重大な目的を持ってこの焼き場にやってきたという強い意志が感じられました。しかも裸足です。少年は焼き場のふちまで来ると、硬い表情で目を凝らして立ち尽くしています。
背中の赤ん坊はぐっすり眠っているのか、首を後ろにのけぞらせたままです。
少年は焼き場のふちに、5分か10分も立っていたでしょうか。白いマスクの男達がおもむろに近づき、ゆっくりとおんぶひもを解き始めました。この時私は、背中の幼子が既に死んでいる事に初めて気付いたのです。男達は幼子の手と足を持つとゆっくりと葬るように、焼き場の熱い灰の上に横たえました。まず幼い肉体が火に溶けるジューという音がしました。それからまばゆい程の炎がさっと舞い立ちました。真っ赤な夕日のような炎は、直立不動の少年のまだあどけない頬を赤く照らしました。その時です、炎を食い入るように見つめる少年の唇に血がにじんでいるのに気が付いたのは。少年があまりきつく噛み締めている為、唇の血は流れる事もなく、ただ少年の下唇に赤くにじんでいました。夕日のような炎が静まると、少年はくるりときびすを返し、沈黙のまま焼き場を去っていきました。」

lesson8


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